台湾語
広義の台湾語
広義には、台湾の住民が話している言語全てが台湾語と言えます。これには、台湾ホーロー語、客家語、先住民諸語(約10種)、中国語(北京語など)、日本語があり、これらは互いに全く通じません。
広義の台湾語に日本語も含まれると言うと意外に思われるかも知れませんが、日本領になる以前の台湾には全土で共通の言語がなく、良かれ悪しかれ日本語は台湾初の共通語であり、その影響は想像以上のもので、現代の日常会話にも日本語の単語がそのまま使われる場合が少なくありません。また、日本統治時代に教育を受けた世代では、今でも日本語で生活を送っている人が珍しくありません。
今日では、中華民国敗残政権による中国語(北京語)の学校教育を受けた世代の方が多くなっていますので、台湾の事実上の共通語は中国語と言えます。但し、外来の支配者に押し付けられたと言う点では日本語も中国語も同じで、歴史を知る台湾人としては少々複雑な思いの筈です。
狭義の台湾語:台湾ホーロー語:江宸フ歌詞
江宸フ歌の殆どがこの台湾ホーロー語です。福建系台湾語、びん南語などとも呼ばれます。この数百年の間に大陸福建省南部沿岸のホーロー人と呼ばれる人達が移住して台湾に定着させた言葉です。永年の間に先住民諸語や日本語の影響も受けて、大陸のホーロー語からは少し変化していますが、今日でも互いの通じます。台湾の80パーセントの人が母語としており、単に台湾語と言えば台湾ホーロー語を指すのが一般的です。中国語の一方言と思われ勝ちですが、英語とフランス語の関係よりも大きな隔たりがあると言われ、全く別な言語であるとする説もあります。
「台湾略史」に記す通り、戦後は正式に研究する事が困難な状態が続き、統一した文字表記もありません。実は、戦前の日本では台湾ホーロー語の研究がかなり進んでおり、仮名と記号を用いて発音を表記する方法も確立していました。しかし、その日本でも、今では、中華人民共和国に親近感を抱く勢力などからの様々な妨害により、大学で台湾語の研究や教育を大々的に行うのは困難なのだそうです。
結局、台湾ホーロー語は台湾人の家庭内で伝授されるのみです。それでも、台湾ホーロー語を母語とする台湾人の台湾ホーロー語に対する愛着は強烈なもので、江宸フ人気もその熱意に支えられている面があると言えましょう。この辺は、家でも外でも日本語だけを話していれば済んでしまう日本人には理解しにくい所ですが、少しでも知った上で江宸フ歌を聴くとまた感動もひとしおです。中国に親近感を抱く人々は、台湾ホーロー語を指して「泥臭い感じ」「喧嘩をしている様に聞こえる」などとしきりに言い立てますが、実際に江宸フ歌を聞いていると、その様な表現が全く的外れである事が良く解ります。一見情熱的な中に繊細な心情を表す語彙が豊富で、繰り返し聞いているとやがて目頭が熱くなる事でしょう。
なお、大多数の台湾ホーロー語の歌詞(このサイトも含みます)は漢字で表記されていますが、上に記した通り、台湾ホーロー語には統一した文字表記はありません。作詞者や編集者が中国語の表記や発音の似た文字を探して当て字しているのが実状です。従って、カラオケ店で唱う場合には、装置のメーカーによって歌詞の表記が異なっている場合が少なくありません。また、福建でホーロー語をローマ字化した聖書が刊行された歴史から、台湾では、台湾ホーロー語の表記法としてローマ字化を推進する運動が、研究者とキリスト教関係者を中心に進められています。これにも政治勢力の思惑が絡んで幾つかの表記方法が乱立していましたが、ようやく統一される方向にあります。良くも悪しくも漢字文化が定着していますので、一般にはローマ字化はあまり受け入れられてはいませんが、学習者には便利な表記法です。
- びん南語の「びん」は門構えに虫(門/虫)です。大陸福建省付近を表す字ですが、日本の通常のPC環境では表示できません。
- 「ホーロー」の漢字表記は福〓(イ+老)、河洛などがあります。ホクロー言う場合もあります。
- 台湾ホーロー語を母語としない台湾人(客家や先住民)にとっては各々の言語こそが台湾語であるわけですから、彼等の前で台湾ホーロー語を指して台湾語と呼ぶと不快な思いをさせる可能性があります。
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